世界遺産・厳島神社で有名な宮島を訪れたことはありますか?
美しい鳥居と神社を見て、もみじ饅頭を食べて、鹿と触れ合って…多くの観光客が日帰りで楽しむこの島に、実は約1,800人の人々が暮らしています。
ところが、この島で暮らす人々の多くが直面する不思議な現実があります。
それは「家や店を建てても、土地は自分のものではない」ということ。
私自身は転勤で各地に住んできましたが、宮島で家やお店を持つ場合の“土地は借地”という仕組みには驚きました。
3世代、4世代と宮島で商売を続けている老舗のご主人でさえ、「うちの土地は借地なんです」とさらりと話します。
観光地として華やかな宮島の裏側には、独特な土地制度に支えられた暮らしがあるのです。
今回は、そんな宮島の借地事情と、実際に島で暮らす人たちだけが知る本当の島暮らしについて、移住を考えている方にも役立つ情報をお伝えします。
宮島の土地が借地だらけの理由
宮島の土地が借地が多い、ということを知ったのは、店主との会話がきっかけでした。
転勤で各地を転々として生活していますが、大半の家は土地・家屋も購入し、物件を建てています。
宮島の借地制度について、転勤でさまざまな場所に住んできた私も正直かなり驚きました。
転勤で広島市に引っ越しましたが、「代々商売をされている店主さんでも、土地は借地のまま」というケースが当たり前だとは思いませんでした。
夫が仕事で週1で宮島へ行く機会があり、その際、「うちは3世代住んでるけど、土地トラブルはない」と店主さんは自信満々に話してくれたそう。
その流れで “実はこの家も土地は借地” と知ったのですが、私も初めて聞いたことばかりでした。
こうした島の事情は、地元の不動産屋さんや市の職員さん、あるいは親族が宮島に住んでいるような人じゃないとなかなか詳しく知らない話みたいです。
歴史的背景
宮島の借地システムを理解するには、この島の歴史を知る必要があります。
宮島は古くから「神の島」として崇められ、厳島神社をはじめとする寺社が島の多くの土地を管理してきました。
明治時代以降も、この土地管理体制は維持され、現在でも島内の多くの土地が公的機関の所有となっています。
驚くべきことに、宮島で3世代以上商売を続けている老舗でも、土地は借地のままというケースがほとんどです。
代々お好み焼き屋を営んでいるある店主は、「祖父の代から借地で、もう70年以上になりますが、土地は相変わらず借りたままです」と話してくれました。
これは決して珍しいことではなく、宮島では当たり前の光景なのです。
土地を所有するのではなく、代々借り続けることで商売や暮らしを営む。
これが宮島の独特な文化として根付いています。
借地権の種類と特徴
宮島で使われている借地権には、主に3つの種類があります。
・普通借地権:最も一般的なもので、30年以上の契約期間があり、更新も可能
・定期借地権:契約期間が決まっており、期間満了とともに土地を返還する
・事業用定期借地権:商業施設や店舗用に使われ、10年以上50年未満の契約
島内の老舗店舗の多くは普通借地権で土地を借りており、世代を超えて商売を続けています。
一方、比較的新しい店舗や住宅では定期借地権が使われることも増えているようです。
興味深いのは、借地であっても建物は自分のものになるということ。
つまり、土地は借りているけれど、その上に建てた家や店舗は所有できるのです。
店主しか知らない島暮らしのリアル
物件の流通と家づくり
宮島で住まいを探す場合、本土とは全く違った事情があります。
まず賃貸物件については、一般的な不動産サイトにはほとんど載らないようです。
地元の不動産屋さんや知人からの紹介がメインルートとなります。
「空いた物件があるよ」という情報は、島の人たちの間で口コミで広がっていくのが普通。
中古住宅を購入する場合も、多くは借地の上に建っています。
つまり、建物は買うけれど土地は借り続けるということになります。
新築で家を建てたい場合は、まず借地契約を結んでから建築するという流れです。
ある移住者の方は、「最初は借地という概念に戸惑いましたが、地代が思ったより安く、固定資産税も土地分はかからないので、トータルで見ると悪くないかもしれません」と話していました。
暮らしの注意点
島暮らしには独特の制約があります。
食材の買い物については、島内にはコンビニエンスストアが1軒、小さな商店が数軒あるだけです。
本格的な買い物は本土のスーパーまで船で渡る必要があります。
車で渡る場合はフェリー代もかかるため、まとめ買いが基本。
医療面では、島内に診療所はありますが、専門的な治療や緊急時には本土の病院へ行くことになります。
特に夜間や台風などで船が止まった時のことを考えると、常備薬は多めに用意しておくと安心です。
交通については、朝夕の船便は比較的本数がありますが、日中や夜遅い時間は便数が限られます。
最終便を逃すと次の日まで帰れないという状況になることも。
ただし、朝は海を眺めながらのんびりと目覚め、夜は満天の星空を見上げることができる環境は、本土では味わえない贅沢でもあります。
店主の本音
実際に借地で商売を営んでいる店主の方々に話を聞くと、意外にもメリットを感じている人が多いことに驚かされます。
「地代は毎月払っていますが、土地の固定資産税がかからないし、土地の値上がりや値下がりを気にする必要もありません。商売に集中できるのは良いことです」と話すのは、カフェを営む店主さんです。
一方で、「建て替えや大規模な改修をするときには地主さんとの相談が必要になるのは、ちょっと面倒ですね」という声もあります。
島で暮らす人によると、住民同士の結束は本当に強いそうです。
台風で船が止まった時や、病気の時、お祭りの準備などで困ったことがあれば、自然とみんなで助け合う習慣が根付いていると話してくれました。
「借地だから」といって疎外感を感じることはなく、むしろ新しく住んだ人でもすぐコミュニティに溶け込める、と多くの住民が実感しているそうです。
借地契約の重要ポイント
契約期間と借地権の種類
宮島で借地契約を結ぶ際には、まず借地権の種類を正しく理解することが重要です。
普通借地権
普通借地権の場合、初回契約は30年以上、更新後は20年以上の契約期間となります。
契約期間が長いため、安心して建物に投資することができます。
定期借地権
定期借地権の場合は、50年以上の期間で契約し、期間満了とともに建物を取り壊して土地を返還することが原則です。
契約時にこの条件をしっかりと理解しておく必要があります。
建て替え・増改築の制限
借地上の建物を建て替えたり、大規模な増改築をしたりする場合には、地主の同意が必要になります。
通常の修繕や軽微な改装であれば問題ありませんが、構造を変える工事や建て替えについては事前に相談が必要です。
地主との良好な関係を保つことが、スムーズな合意につながります。
地代と維持管理費
宮島の地代は立地や土地の広さによって大きく異なりますが、一般的には月額数万円から十数万円程度です。
商業地区や神社に近い場所ほど地代は高くなる傾向があります。
住宅用地の場合は比較的リーズナブルな設定になっていることが多いようです。
地代とは別に、共有部分の維持管理費が必要になる場合もあります。
契約前にこれらの費用について詳しく確認することが大切です。
更新・相続時のリスク
借地権は相続することができますが、相続時には地主への通知が必要になります。
また、借地権を第三者に譲渡する場合には、地主の同意が必要です。
この同意が得られない場合や、高額な承諾料を求められる場合もあるため、将来的な処分についても契約時に確認しておくことが重要です。
専門家への相談の必要性
借地契約は法律的に複雑な面もあるため、契約前には必ず専門家に相談することをお勧めします。
特に宮島のような特殊な立地では、一般的な借地契約とは異なる条項が含まれることもあります。
司法書士や弁護士などの専門家に契約書の内容を確認してもらうことで、後々のトラブルを避けることができます。
移住のヒント ― 島で暮らすために
事前に島暮らしを体験する
宮島への移住を考えているなら、まずは短期間の島暮らしを体験してみることをお勧めします。
観光で訪れるのと実際に暮らすのでは、全く違った面が見えてきます。
船の時間に合わせた生活リズム、買い物の不便さ、台風などの自然災害への備えなど、実際に体験してみることで移住後の生活がイメージしやすくなります。
島内には民宿やゲストハウスもあるので、数日から1週間程度滞在してみると良いと思います。
地元の人たちとの交流も滞在することでわかる面も多いはずです。
私は転妻で日本各地を転々としていますが、政令市でも旅行で行くのと実際に住むと印象が全然違うエリアもあります。
宮島はとても素敵で魅力的な土地ですが、島、という土地柄もあるので、滞在するのは本当におすすめです。
地元不動産・工務店とのつながり
宮島で住まいを見つけるには、地元の不動産屋さんや工務店とのつながりが欠かせません。
島内には数社の不動産業者がありますが、それぞれ得意分野や扱っている物件が異なるようです。
複数の業者と話をして、自分の希望に合った物件情報を得られるようにしておくことが重要。
また、新築や大規模リフォームを考えている場合は、島内で実績のある工務店を見つけておくことも大切です。
資材の運搬や職人の確保など、島特有の事情を理解している業者に依頼することで、スムーズに工事を進めることができます。
地域コミュニティへの参加
宮島での暮らしを豊かにするには、地域コミュニティへの積極的な参加が欠かせません。
島内には町内会や商工会、観光協会など様々な組織があります。
これらの活動に参加することで、地域の情報を得やすくなり、困った時には助けてもらえる関係を築くことができます。
特にお祭りや清掃活動などの地域行事への参加は、住民として受け入れてもらう大切なステップ。
最初は慣れないかもしれませんが、島の文化を理解し、地域に溶け込むための貴重な機会と考えて積極的に参加することをお勧めします。
まとめ ― 借地が守る宮島の文化と暮らし
宮島の借地システムは、一見すると複雑で分かりにくく感じるかもしれません。
しかし、このシステムこそが、神聖な島としての宮島の景観と文化を守り続けてきた重要な仕組みなのです。
土地の所有権を分散させることなく、統一的な管理を行うことで、無秩序な開発を防ぎ、美しい島の風景を保ってきました。
借地で暮らしていて土地の持ち主じゃなくても、宮島の文化やコミュニティにはしっかり関わっている――住民の方から、そんな話を何度も聞きました。
商売や職人仕事、地域のお祭りなども、借地の制度があるからこそ続いてきたものが多いそうです。
土地を持っていなくても、みんなが島の歴史や日常の一部として過ごしている。
これが宮島の独特の良さなんじゃないかな、と話を聞いていて感じました。
移住を考えている方にとっては、借地システムは最初は戸惑うかもしれません。
しかし、この制度を理解し受け入れることができれば、宮島という特別な場所で、他では味わえない豊かな暮らしを手に入れることができると思います。
観光地として有名な宮島ですが、そこには人々の暮らしがあり、独特な土地制度に支えられたコミュニティが存在しています。
借地とことを理解し、移住するメリットも大きいと感じました。
本記事は2025年9月時点での島民・移住者取材を元に構成しています/筆者は広島市在住経験あり。最新の情報は公式サイトもご確認ください。