私は転勤族の妻として広島市で数年暮らしていました。
夫は仕事の関係で週に1回ほど、2年間宮島への出張を続けており、その縁から私も何度か島を訪れる機会がありました。
こうして観光地として有名な宮島の、日常の一面を知るようになったのです。
朝8時ごろ、宮島口桟橋でフェリーを待つ人たちの中に、スーツ姿の会社員や制服の店員さんがいる様子を、夫がよく話していました。
本土から島へ渡って働く「島勤務」スタイルの人が意外と多く、フェリーは彼らの毎日の暮らしに欠かせない交通手段になっています。
最初、船での通勤は珍しいと感じていましたが、夫の話を聞くうち、都市部の満員電車と比べてずっと快適なことに気づきました。
宮島は華やかな観光地の顔だけでなく、働く人たちのリアルな日常や、船通勤ならではの発見、不便さも存在します。
これから、私自身が感じたことと夫の経験を交えながら、宮島の二拠点生活や船通勤のリアルについてお伝えします。
「移住してみたい」「島で働く生活が気になる」と感じている方にも、何かの参考になればと思います。
フェリー通勤のリアル
時間と費用
宮島口から宮島桟橋までのフェリーは約10分、料金は片道180円です。
朝の通勤ラッシュ時間帯(7時半から9時頃)は6分間隔で運行されているので、電車のような時刻表を気にする必要がほとんどありません。
廿日市市で生活したとしても、月の交通費は、JR区間が約3,000円前後、フェリー代が約7,200円で合計1万円程度。
宮島での家賃が廿日市内中心部より高いことを考えると、「島勤務」はトータルでは節約になっているかもしれません。
船ならではの体験
船通勤の最大の魅力は、何といっても毎日変わる海の表情を楽しめること。
春は桜、夏は青い海、秋は紅葉、冬は雪化粧した厳島神社の大鳥居。
観光客が大金を払って見に来る絶景を、毎朝毎夕「通勤途中」に眺められるのは至福のひととき。
ただし、船酔いしやすい方は要注意です。
特に冬場の強風時や台風シーズンは、フェリーが大きく揺れることがあります。
酔い止めを使うのも良いかもしれません。
なぜ”島勤務×本土生活”が多いのか
生活インフラの不足
宮島の人口は約1,800人と小さな島です。
生活に必要な施設を考えると、島内にはコンビニが1軒、小さなスーパーが2軒程度しかありません。
病院は島内に診療所が1軒あるものの、専門的な治療や緊急時には本土まで出る必要があります。
また、宮島は観光地なので、日用品の価格が本土より割高になりがちです。
例えば、同じペットボトルのお茶でも島内では150円、本土では120円。
このため、島内で働いていても、買い物や用事は本土で済ませるという人が多いのが現状です。
住宅事情と家賃相場
宮島内の賃貸住宅は選択肢が非常に限られています。
島内のアパートは1Kで月5万円から、1DKで6万円程度が相場ですが、そもそも空き物件を見つけること自体が困難だそう。
多くの建物が古く、観光地価格で家賃も割高感があります。
一方、宮島口周辺なら1DKで4万円台、2DKで6万円台と選択肢も豊富。
新築物件や駐車場付きの物件も多く、生活の利便性を考えると本土居住を選ぶ人が多いのも納得です。
店主や住民の本音
宮島で働く地元の方々に話を聞くと、観光地ならではの複雑な想いが見えてきます。
商店街の店主さんは「観光客には感謝しているけど、毎日となると疲れることもある。でも、島を愛してくれる人たちと出会えるのは嬉しい」と話してくれました。
また、代々島に住む高齢者の方からは「昔はもっと静かで、島民同士の結びつきも強かった。今は観光化が進んで便利になったけど、昔の良さも失われた」という話も聞きました。
観光と生活のバランスは、島の永遠の課題なのかもしれません。
メリット
島勤務の魅力として、まずは職場環境の特別さが挙げられます。
世界遺産である厳島神社や瀬戸内海の美しい景観を、仕事の合間にふと眺められる。
こんな環境は、なかなか他にはありません。
観光で訪れる方たちの多くは、新鮮な気持ちですごしているためか、いつもより笑顔が多く、接客の仕事でも心が和む瞬間が多かった、と現地の方々から聞いたことがあります。
また、島にはゆったりとした時間が流れていて、都会のような空気とは違う穏やかさを感じるときがあります。
四季の移ろいも身近に感じることができ、春の桜や秋の紅葉、夕焼けの海など、観光とはまた違う“宮島の楽しさ”や自然の美しさに気づくことができました。
夜になると観光客が去って島は静けさを取り戻し、帰りのフェリーから見る夜景が一日の疲れを癒やしてくれた記憶があります。
さらに、長年住んでいる地元の方々との交流や、島ならではのゆるやかな人間関係も特別なものとして心に残りました。
このような日々の体験を通じて、「島で働く」というメリットも発信できたら、と思っています。
注意点
島勤務には、理想的な面だけでなく注意点もいくつかあります。
まず一番の懸念は天候によるフェリーの運航です。
台風や強風・濃霧など悪天候の場合、出港1時間前までに欠航が決まることもあり、実際に私の夫も、台風接近の日に宮島から本土へ戻れず、急きょ島内の宿泊施設に滞在した経験がありました。
フェリーには「終船」というタイムリミットがあるため、最終便を逃すとその晩は島に残らざるを得なくなります。
また、生活物資や食料品などは本土よりやや割高となり、たとえば同じペットボトル飲料でも宮島内では20~30円ほど高く感じました。
医療機関は島内に小さな診療所が一軒あるだけで、専門的な診療や緊急時にはどうしても本土まで出ることになります。
深夜帯は当然船もなく、車や電車のように自由がききません。
本土での飲み会や夜の用事がある場合も、最終のフェリー時刻(通常22時10分、冬季は21時10分)を意識して早めに切り上げる必要があります。
都市部の友人との付き合いでは、この点にやや不便さがあると思います。
両立術:都会と島をつなぐ生活
時間の工夫
船通勤を活かした時間の使い方を覚えると、生活スタイルがぐっと楽しくなると思います。
朝の船内では一日のスケジュール確認、夕方の船内では翌日の準備をしたりすると、時間を有効活用できそうです。
約10分という短い時間ですが、毎日積み重ねると結構な時間になります。
また、気分転換として船時間を瞑想タイムとして使うのも良いかもしれません。
休日の過ごし方
休日は本土の生活を満喫することもできます。
広島市内でショッピングを楽しんだり、映画を観たり、友人と食事をしたり。
宮島口から広島駅まで約30分なので、都市部へのアクセスも思っているより便利です。
逆に、宮島でも休日を楽しむことができます。
早朝の人が少ない厳島神社を散策したり、島内の隠れた絶景スポットを探したり。
観光客とは違う「島の住人」としての楽しみ方を発見できるのも、この生活スタイルならではだと思います。
まとめ:船通勤で広がる新しい働き方
宮島での「島勤務×本土生活」という二拠点スタイルは、確かに一般的な通勤とは違う苦労や大変さがあります。
しかし、毎日世界遺産を眺めながら通勤できる贅沢さ、ゆったりとした島時間と都市の利便性を両立できる面白さは、他では味わえない経験です。
リモートワークが普及し、働き方の多様性が注目される今、宮島のような場所での新しい働き方は、これからもっと注目されるかもしれませんね。