広島市に転勤が決まって数年暮らしていた間に、何度も宮島を訪れる機会がありました。
世界遺産の厳島神社だけじゃなく、町を歩くたびに、祭りや伝統行事の準備をする島の方々の姿や、キレイに保たれた町並み、自然に根付いている文化の空気にふれることができました。
管絃祭や鎮火祭など、私自身は観光客として見学・参拝するだけでしたが、島の皆さんが声をかけ合って準備や掃除をしている様子――イベント会場の掲示や観光案内所、現地で聞こえてきた会話などから、「この島の美しさは、住民の協力で守られているんだな」と感じたのをよく覚えています。
息を呑む美しさ-管絃祭の夜に包まれて
平安絵巻が蘇る瞬間
旧暦6月17日の夜、宮島の海は幻想的な光に包まれます。
管絃祭は厳島神社最大の神事であり、平安時代から1,000年以上続く伝統行事です。
実際に現地で夕暮れの港や桟橋に行ってみると、船主さんや町内会の方々が飾り付けや準備をしている様子が見られ、地域の協力があってこそ祭りが成り立っているんだという空気を感じました。
船団が海へ出ると、雅楽の音色が岸辺まで響いてきて、観光客も地元の方も静かに見守る独特の雰囲気があります。
ガイドブックや現地掲示を見ると、毎年の準備・運営には多くの島民が関わっていることが分かりました。
炎に託す祈りー陳火祭の熱気に包まれて
1,000本の松明が織りなす光景
年末の鎮火祭は、宮島の冬を彩る圧巻の火祭りです。
火難除けを祈願して町全体で約1,000本の松明を持ち寄り、島中を練り歩く光景は、まさに壮観という言葉がぴったり。
祭り当日、夕暮れとともに島のあちこちから松明の炎が立ち上がります。
青年会や消防団の方々が作った大型松明、子ども会が一生懸命作った小松明、各家庭の火の用心祈願の松明。
大小さまざまな炎が一つの流れとなって島を巡る様子は、とても幻想的でした。
驚いたのは、松明作りから当日の運営、片付けまで、すべてが島民の手作りで行われていることです。
青年会の皆さんが材料の調達から制作まで担当し、各町内の子ども会では作り方を丁寧に伝授している光景も微笑ましく、印象に残りました。
火を通じて深まる絆
年末の鎮火祭では、通りがかりに松明を持った島民や子どもたちの列を見かけました。
祭りのためにみんなが集まっている様子、島民の手作り感があふれていて観光客にもパワーが伝わります。
終了後の片付けも分担されていて地域の一体感が感じられました。
季節を彩る多彩な行事たち
春の桃花祭-雅な舞楽に包まれて
4月15日に行われる桃花祭では、厳島神社で舞楽と神能が奉納されます。
桜の季節と重なることもあり、境内は参拝者と花見客で賑わいます。
伝統技芸系の家庭や保存会メンバーの方々による舞楽は、管絃祭とはまた違った優雅さがあり、春の陽だまりの中で繰り広げられる古典芸能は格別の美しさでした。
地元の小料理屋や民芸店の方々が差し入れや接待を担当する温かい雰囲気も印象的です。
町内の婦人会や子ども会も会場設営やお花見スペースの掃除に参加し、島全体でお祭りを盛り上げています。
夏の玉取祭-熱気あふれる海の祭典
宮島版裸祭りとも言われる「玉取祭」は、ふんどし姿の男たちが厳島神社の海に飛び込んで宝珠を奪い合う迫力満点の神事です。
夏の暑さも忘れるほどの熱気に包まれ、参加者の真剣な表情と観客の声援が一体となって、会場は最高潮の盛り上がりに。
この祭りでも、島民の皆さんの連携が光ります。
安全管理、救護体制、観客整理まで、細やかな配慮が行き届いており、伝統を守りながらも安全面も万全。
運営の素晴らしさに感心しました。
現代と伝統が織りなす景観保全
美しさを守る島民の日常努力
宮島の美しさは、祭りの時だけでなく、普段から地元のみなさんの細やかな努力で守られていると感じました。
町を歩くと、全体が「伝統的建造物群保存地区」に指定されていて、家やお店を新しく建てるときも高さや色・外観までしっかりとルールが決められているそうです。
実際、どの通りを歩いても伝統的な雰囲気が崩れておらず、看板や建物のデザインも景色になじんでいました。
また、最近は無電柱化も進み、電線が視界を邪魔しないように地中化されている場所も多くあります。
こうした町並み保存や風景に配慮した取り組みが、観光案内所や街なかの案内板などでしっかり説明されていました。
住民主体の環境保護活動
特に感心したのが「きらっと宮島プロジェクト」などの清掃活動です。
町内会や観光協会が中心となって、住民や子どもたち、時には観光客まで一緒になって海岸や登山道、広場などのごみ拾い・美化活動に参加していました。
案内所で聞いたところ、「宮島地区パークボランティアの会」では40名以上の住民が、自然観察会・希少生物の調査・保護(絶滅危惧種のミヤジマトンボやラムサール湿地のクリーンアップなど)にも積極的に取り組んでいるそうです。
こうやって、昔ながらの町並みの保存と、現代の環境保護や住民ネットワークが一緒になっているからこそ、宮島は今も変わらない魅力を保ち続けているんだと実感しました。
伝統と革新の絶妙なバランス
宮島は、観光スポットとして有名ですが、地元の人の暮らしや文化もちゃんと息づいてるなと思います。
たとえば、もみじ饅頭や木の工芸品のお店も、若い後継者が古い技や味を受け継ぎつつ、観光客が喜びそうな新しいアイデアもどんどんチャレンジしてる感じです。
老舗の和菓子屋さんに行くと、「おじいちゃんのころから変わらない味」と「今どきのおしゃれなお菓子」が並んでいて、どちらも地元の自慢なんだなぁと感じます。
あと、“みやじま雛めぐり”や“宮島踊りの夕べ”のような地域イベントも、観光で来た人と島の人たちが一緒になってワイワイ楽しんでいました。
こういう催しは、もともとは観光向けに始まったものも多いみたいですが、今ではすっかり地元の季節行事っぽくなっていて、外から来た人も島民も一緒になって盛り上がってます。
伝統も大事にしつつ、観光や現代の暮らしにもちゃんと寄り添っている――そんな宮島の「ちょうど良さ」が、私はとても好きです。
未来への継承-島民が守る美しさの源泉
当たり前に息づく美意識
宮島でとても印象的だったのは、地元の人たちが「美しさを守るのは当たり前」という感覚で生活していることです。
例えば、鹿などの野生動物にむやみに餌をあげない、ごみは持ち帰る、分別を徹底するといったルールが自然に根付いていて、観光地としてのマナーも島民の日常の一部になっています。
実際に町を歩くと、家や店の前、道路や海沿いがいつもきれいで、朝から掃除をしている地元の方をよく見かけました。
「ゴミの落ちていない島を保とう」という意識が、島のみんなに広がっているんだなと感じます。
こうした行動は、誰かに強制されているからではなく、「自分の町が好きだから、自然に守る」という気持ちから生まれているものだと思います。
同じような思いを持つ島民が多いからこそ、宮島の美しさはずっと続いているんだと思います。
多世代で支える文化継承
宮島の伝統って、「お祭りの日だけ特別」じゃなくて、普段から色んな世代が自然に関わってるんですよね。
たとえば、神社やお寺の掃除や修理の時は、年配の方だけじゃなく、若手や子どもたちも「手伝うよ!」という感じで集まってきます。
松明づくりや祭りの準備も、子ども達が参加して「昔からこんなふうにやってきたんだ」と肌で覚えていく。
実務は青年会や婦人会が中心でテキパキ進めて、ベテランの人たちは「こうやるんだよ」と技や知恵を伝授してくれる――そんなアットホームさが居心地いいんです。
みんなが無理なく、それぞれの持ち場で役割を果たしてるから、昔からの伝統が今もちゃんと生きてるんだと宮島を歩いてしみじみ思いました。
まとめ-時を超えて受け継がれる美しさ
宮島に何度か観光で訪れてみて、この島の美しさは決して当たり前にできあがったものじゃないと感じました。
平安時代から続く祭りや伝統行事――管絃祭など、長い歴史のあるイベントは、島民や関係者の方が今も丁寧に受け継いでいます。
そして、町並みや自然を守るための景観規制や清掃活動、環境保護のボランティアなど、普段から地元の人たちがコツコツ積み重ねている努力がたくさんあります。
観光地としての便利さと、神聖な伝統を守る気持ち――
一見すると違うもののようですが、宮島ではうまくバランスが取られていて、昔からの良さと今の魅力がどちらも感じられます。
こうした積み重ねは、見学に来る私たち観光客にも大きな学びになると思いました。
宮島は、静かながら力強く、伝統と現代が両立した理想のコミュニティだと感じます。
これからも、島民のみなさんの小さな努力と心遣いが、“世界に誇れる美しさ”をつくっていくのだと思います。